光源の選び方
1.光源の選定
屋内外の空間の照明設計を行う際、空間の用途や大きさに適した光源を選定することは最も重要なプロセスである。最近、LEDの技術革新により、種々の用途に向けたLED照明器具が販売されているが、例えば、現状のLEDは高光束の光を一定の方向に集光したい場合には必ずしも適していない。そのため、現段階で普及している光源の特徴を理解して光源を選定することが重要である。例えば、短期間のイルミネーションイベントにおいては、エネルギー効率よりも照明効果を優先して光源を選定する場合もある。
2.発光原理
人工光源の発光原理は、熱放射とルミネセンスに大別できる。熱放射は、物体(タングステンフィラメント)を高温に熱すると、その結晶の熱振動が活発になり、エネルギーを放射する現象である。物体が低温のうちには放射されるエネルギーはほとんど長波長の赤外線である。物体が高温になると短波長の放射エネルギーが多くなり、可視光を含む連続スペクトルを生じる。
ルミネセンスは、ある物質が受け取ったエネルギーがその物質を構成している分子や原子に吸収されて高いエネルギーを持つ励起状態となり、それが光エネルギーとして放出される現象である。放電発光、フォトルミネセンス、電界発光など熱放射以外の放射を総称する。
3.各種光源の発光の仕組み
ここでは、代表的な光源について発光原理を説明する。
白熱ランプは、タングステンフィラメントに電流を流し、白熱状態にして可視光を放射させる光源である。白熱ランプのタングステンフィラメントに電流が流れると、フィラメントは、温度上昇に伴い電気抵抗が増加し、2千数百度に達する。これを白熱状態とよぶ。白熱状態になったフィラメントは、放射エネルギーを発生する。この放射エネルギーのうち、可視域の範囲のエネルギーが光として照明に利用される。白熱ランプは、目では見えない赤外線を放射するため、照明用光源としてはエネルギー効率が悪い。しかし、文字通り「暖かい」光源であるとともに、点光源であるため、光源の輝きを照明効果として生かすこともできる。
蛍光ランプは、低圧の水銀蒸気放電で放射される253.7nmの紫外放射を利用し、蛍光体を励起することにより可視光を発生させる光源である。蛍光ランプを点灯すると、電極に電流が流れ、予熱される。高温になった陰極のエミッタから電子が放出される。放出された電子は、反対側の陽極に引かれ、放電が始まる。放電により流れた電子は、ガラス管内に封入された水銀原子と衝突する。衝突により水銀原子は電子のエネルギーを受けて紫外線を発生する。この過程が低圧放電と呼ばれる現象である。ガラス管の内側に塗布された蛍光体が紫外線を受けて可視光線を発生する。これは、フォトルミネセンスと呼ばれる現象である。蛍光ランプの発光スペクトルは、ガラス管に塗布された蛍光体の種類によって決まる。
HIDランプは、封入物質を熱的に励起・電離させて可視光を放射させる光源である。例えば、水銀ランプでは、蛍光ランプと同様に、陰極から放出される電子が陽極に引かれる過程で水銀原子と衝突し、水銀原子が光を放出する。蛍光ランプのような低圧放電では、水銀原子が放出するエネルギーは目に見えない紫外線がほとんどを占めるが、水銀ランプでは、点灯中の水銀原子の密度と温度が高いため、放射される発光スペクトルの波長範囲が広く、可視光が放射される。
LEDは、P型半導体とN型半導体を接合(P−N接合とよぶ)したものである。P型半導体には、正の電荷をもつ多数の正孔が存在し、N型半導体には、負の電荷をもつ多数の電子が存在する。正孔と電子が互いに結合する際に光を発する。しかし、P−N接合部には障壁が生じ、正孔と電子が行き来できない。そこで、P−N接合部に電圧を加えることにより障壁はなくなり、正孔と電子が行き来できるようになる。さらに、半導体が持っている正孔と電子が結合するのに必要なエネルギー(バンドギャップとよぶ)を与えることにより、両者は結合し、その際に失ったエネルギーが光になる。現在照明に使用されている白色LEDは、主として、青色LEDまたは紫外発光LEDに蛍光体を組み合わせたものである。
4.光源の特性
4.1. 分光分布
様々な光源から放射される光は、波長ごとにそれぞれ異なった強さの放射エネルギーの分布を持っている。この波長ごとの放射エネルギーの分布を分光分布と呼ぶ。光源の分光分布の形からその光源の光色やその光源により照明した物体の色の見え方などの特徴をある程度うかがうことができる。しかし、分光分布だけでは、定量的に光源の特徴を表現することが出来ないため、色特性を表す尺度として次に説明する演色性や色温度が用いられる。
4.2. 演色性
トンネル内で低圧ナトリウムランプにより照明された物体の色が、昼間、天然光源の下で見る物体の色と異なる。このような照明光によって異なる物体色の見え方を演色(color rendering)という。照明光による物体色の見え方を光源の特性と考えたとき光源の演色性という。
一般照明用光源の演色性評価方法は、JIS Z 8726に規定されている。光源の演色性は、評価する試料光源の下での試験色の見え方を基準光源下でのそれらと比較することによって評価される。基準光源は、黒体放射、あるいは、国際照明委員会(以降、CIEとよぶ)が定めるCIE昼光から、評価する試料光源の相関色温度と等しいものを選ぶ。試験色は中間的な彩度の15色が決められている。各試験色を基準光源と試料光源で照明したときの両者の色刺激値の色ずれ量を100から差し引いた値を計算する。さらに、1番から8番の試験色に対する特殊演色評価数の平均値を平均演色評価数Raと呼ぶ。
4.3.色温度
日常的に光の見かけの特徴を表すとき、赤っぽい光、青っぽい光などというが、このような照明光や光源の色を一般に光色とよぶ。光色を表す尺度として、色温度を用いる。光源の色温度は、その光源と等しい色度を持つ黒体の絶対色温度(単位:ケルビン(K))で表す。ただし、蛍光ランプなど一般的な人工光源は、その色度が黒体軌跡上にないため、黒体軌跡の周辺の色度範囲まで色温度の適用範囲を広げて用いられる。その色温度は、相関色温度と呼ばれる。相関色温度は白色光に限って適用されるものであり、赤色や青色の光といった色光には適用できない。相関色温度が低い光色ほど暖かい感じがし、高い光色ほど涼しい感じがする。
5.回折格子フィルムを用いた分光器の仕組み
光は、波としての性質を持っている。分光器は、光の波としての性質である回折と干渉とを利用して光をスペクトルに分ける(つまり、分光する)。回折は、障害物に当たったとき直進するのではなくそれを回り込む性質を言う。干渉は、複数の波の重ね合わせによって新しい波形ができることを言う。上述の光の波としての性質は、障害物が波長と同等かそれより小さいときに見られる。
簡易分光器の作り方の動画
光を分光させるには、まず、光を細いスリットを用いて回折させなければならない。右図の左に細いスリットを通ったある波長の光が回折する様子を示す。しかし、このときスリットが1本だけでは光は分光しない。分光させるためには、近くに仲間のスリットが必要である。また、分光したスペクトルを観察しやすいようにするためには、そのスリットが、可視光の波長と同程度の小さな間隔で密集して並んでいる必要がある。なお、この分光器の回折格子フィルムのスリットは、1ミリ当たり500本の割合で並んでいるので、スリットの間隔は2 nmである。さらに、隣接するスリットに入った光も同じように回折する。隣接する波の間で、正・負それぞれのピークが一致するところでは波が強めあい、正負が逆であるところでは弱めあう。これが光の干渉である。
右図に異なる波長の光が分光される様子を示す。波長ごとに干渉が起こる方向が少しずつ異なるので、スクリーン上では分光した光を連続する虹のように観察することができる。右図では、単一方向に干渉する光に注目して描かれているが、他の干渉方向にも同様な干渉縞が観察できる。ただし、0度(直進)方向に干渉した光は、他の波長の光も同じ方向に向かうので、色が混ざって分光しない。また、入射する光の幅が大きすぎると一旦分光した光が隣通しで混ざってしまうので、光を導入する入り口の幅を狭くする必要がある。
参考文献
- 日本色彩学会編, 1998, 新編色彩科学ハンドブック第2版, 東京大学出版会
- JIS Z 8726, 1990, 光源の演色性評価方法, 日本規格協会
- JIS Z 9112, 2012, 蛍光ランプ・LED の光源色及び演色性による区分, 日本規格協会
- CIE, 1986, Guide on Interior Lighting, CIE Publication 29/2
- 臼田昭司, 2010, 絵とき白色LED基礎のきそ, 日刊工業新聞社
- 一ノ瀬昇, 中西洋一郎, 2010, 次世代照明のための白色LED材料, 日刊工業新聞社